「人間中心の教育(PCA)」とは

人間中心の教育とは聞きなれないことばかもしれません。環境問題に関心のあるひとならば、 人間中心の自然観(人間にとっての利益だけを中心に自然を考えるみかた)が環境破壊を起こしてきたとして違和感を覚える人がいるかもしれません。 しかしここでいう「人間中心」とは自然に対して「人間の利益を第一に考える」「人間中心」ではありません。 教育という人間の営みの中でそのひとの人間としての存在や成長を中心として教育活動をしていこうという意味での「人間中心」です。

☆「人間中心の教育」は、「文化の伝達」や「成績」ではなく、そのひとの「人間としての存在や成長(自己実現)」を中心に考えます。
従来の教育は人類の文化遺産としての知識をどれだけ効率的に修得させるかを中心に考えられてきました。 文化の伝達が教育目標とされたのです。しかし「知識」と「頭」を中心とする学校時代での成績と現実の自己実現度との間には 大きなギャップがある事はさまざまな社会的エリートが起こしている問題が証明しています。 「人間中心の教育」ではそのひとの人間としての成長の援助(自己実現力の育成)が目標であり、 文化の伝達や成績はそのひとが人間として成長するための触媒と考えています。

☆ 「人間中心の教育」は人間の自己実現を目標としています。
そのためにもそのひとの「存在」を「行為」よりも高く評価し、ともに安心できる「安全な場」を作り出す事が大切だと考えています。 自己実現というとできない事ができるようになるという風に考えられがちです。自己実現にはそういう面も有りますがそれは自己実現の本質では有りません。 人間として自己が実現するということはそのひとの業績や行為ではなく何よりもあるがままの存在として尊重される事で実現されるものだと考えています。

☆ 「人間中心の教育」では自分自身の理解、他人の理解、対人関係の理解と促進を中核に据えながら、 自己実現的人間の成長を促進するような場として、家庭や学級・学校など教育組織、ひいては社会全体が発展していかなければならないと考えています。
ところが、現実の社会では「業績中心」「成績中心」の下、人間は孤立し、対立し、競わされ、あるいは無関心を装い、また組織の歯車として物のように扱われる事が多くあります。 組織の中でもひとりひとりが人間として尊重され、人間としての成長が目指されなければなりません。そのことが人間的な組織を作っていくと考えています。

☆ 「人間中心の教育」では生徒も教師も「平等の地平に立つ人間」として時には教え、時には教えられる、ともに学び、成長しあう学習の風土を造る事を課題としています。
伝統的な学校教育では教師が主役でした。そして教師の仕事は教育内容を効率よく生徒に修得させたり、 社会に適応できる理想的な人格になるように指導する事と考えられてきました。「人間中心の教育」では学校の主役は生徒だと考えています。 教師は生徒が成長できるような場を用意する援助者だと考えています。もちろん、援助者は奉仕者では有りません。生徒の成長のためには時に教師自身が壁になったり、 教育的制限をする事が必要な場合もあります。それでもあくまでも目標は生徒の人間としての成長への援助です。 教師は教育活動の中での生徒との関係性を通して教師として、人間として成長していくのです。 教師もまた生徒と同じようにひとりの人間として尊重されなければなりません。

☆ 「人間中心の教育」では教師中心の一斉授業ではなく「対話」を重要な方法として、生徒ひとりひとりが成長できるような授業を目指します。
伝統的な授業では教師のペースで教師が一方的に授業を進める一斉授業が一般的でした。 ひとりひとりの生徒が成長していくためには生徒自身が自分で計画を立て、実行し、反省して勉強を進めていく方法を中心にする事が大切です。 そして一斉授業を行うにしても、教師と生徒や生徒同士での「対話」がとても重要な方法になります。対話を通して自己への気づき、他人への理解などが促進されるのです。 エンカウンター・グループ(対話による出会いグループ)はこの課題に向かっての基礎的なアプローチを提供するものです。

☆ 人間が尊重される教育環境と教育組織の改革めざします。
人間中心の教育が実現しやすい環境と学校とは、ひとりひとりに合わせた学習の徹底的な個別化がされ、画一的でなく、 自由で活気と創造性に満ちた雰囲気をもち、保護者・生徒・教師・住民の四者によって民主的に運営され、 人間的なふれあいの可能な小人数の学校でしょう。といって現行の教育組織の基準と学習指導要領を無視する事もできません。 現行の制約下でもこれらのイメージに近い学校に向かっての歩みをして、次の変革に向けての実証的な資料と提言を提起したいと思っています。

☆ 「人間中心の教育」の基礎には人間の自己成長力に対する信頼の哲学があります。
ひとはそれぞれ個人差を持ちながらも能力に関わりなく自分の運命・資質を自分の努力をもって開花させる権利と潜在力を持っています。 その潜在力を開花させるにふさわしい風土(条件)があれば、必ず自己実現的な人間として活力ある一生を成長し続けることができます。 それは親、教師、社会、国家の権力によって歪められ、抑圧されてはならない貴重な個性であり、人権です。 ひとりひとりが自分の人間としての内なる可能性に目覚め、それを実現させ、 自分の人生と社会に責任をもてる人間としての成長を目指す事こそ人間中心の教育だと考えています。 その成長を援助する事で自分もまた成長するのが教師だと考えています。

目の前にいるそのひとの人間としての成長を援助する事で
自分自身、人間として成長していきたいと願っているあなた
自分自身の教育活動を手がかりに
自分自身の教育実践力や教育理論を高めたいと願っているあなた
人間中心の教育研究会の仲間になりませんか。

1979年12月25日から3泊4日、神戸有馬温泉において「教育のためのエンカウンター・グループ経験と 人間中心の教育研修会(有馬研修会)」が初めて開催されました。
その中でこの研修会での体験を日常の教育実践と研究に生かし、「人間中心の教育」 を社会に広げて行こうという声が上がり、 5年後の1984年に誕生したのがこの研究会です。その後、1996年まで毎年、機関誌を発行し、 1988年からは8月末に大阪で1泊2日の「人間中心の教育セミナー」を開催してそれぞれの実践を交流する場を持ってきました。
また、1992年からは毎月(8月、12月は除く)定例会を開いています。ぜひ入会されてともに新しい教育に取り組んでいきましょう。(現在は2ヵ月に1回程度実施)
申込みは 水野行範 pca-mizuno@nifty.com まで
人間中心の研究会大阪事務局口座番号00910-2-107598  年会費3000円です。


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